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『藍空をなぞって』に込めた記憶と、星空の裏側に残した約束について

楽曲解説藍空をなぞって

新しく形にした楽曲『藍空をなぞって』について、その世界観や物語の奥に込めた想い、そして映像や言葉の中にそっと散りばめた小さな約束たちについてまとめました

夜の静けさの中で、この曲とふたりの物語にそっと寄り添っていただけたら幸いです


藍色の空の下で交わした、ふたりだけの秘密

物語の舞台は、山あいにひっそりと佇む夜の神社です

街の灯りを遠く背に受ける静かな境内で、夏の星空を司る狐巫女の少女「こはく」と、夜空を見上げにやってきた少年「ろう」が出会うところから始まります

本来、夜の神社は人が足を踏み入れてはならない場所

けれど、指先で天の川をなぞり、星々を静かに巡らせるこはくの姿を目にしたろうは、恐れることもなくまっすぐに問いかけます

「今、星……動いたよね?」

驚き戸惑いながらも拒みきれないこはくと、「少しだけ」と約束して並んで夜空を見上げるろう

その夜から、誰にも明かせないふたりだけの秘密の時間が始まりました

他愛のない言葉、風鈴の音に溶ける笑い声、指先ひとつで瞬きを変える星々

人と話すことの温もりを初めて知ったこはくと、星空よりも眩しい時間を知ったろう

けれど、穏やかな夜が重なるほどに、季節の針は静かに終わりへと進んでいきます

こはくは「その年の夏」のためだけに生まれた存在

夏が幕を閉じる八月の終わりには、空へと還らなければならないという運命を背負っていました

終わりを知りながらも微笑んでみせる少女と、その笑顔の奥にある寂しさに気づき、心の中で誓いを立てる少年

夏の宵の短い時間の中で交わされた奇跡を、この音と映像に込めました


空に託した約束と、散りばめた伏線たち

この作品には、歌詞や映像、こぼれ落ちる台詞の端々に、ふたりの想いを重ねた小さな仕掛けをしています

それらの糸を辿ることで、この物語が持つもうひとつの表情を感じていただけるかもしれません

冗談交わした夏の夜と、最後に浮かべた「淡色のふたご座」

物語の前半、他愛のないおしゃべりの中で、こはくは悪戯っぽくこう口にします

「たまにはさ、夏だけど冬の星座も出しちゃう? なんてね」

「それ、見てみたいな」

「……ダメに決まってるでしょ、怒られちゃうから」

神様から役目を授かる彼女にとって、季節の理を乱し夏の空に他の季節の星を呼ぶことは決して許されない「禁忌」でした

だからこそ、ふたりで笑い合える冗談として言葉にしていたのだと思います

けれど、別れが訪れる八月三十一日

その輪郭が光へと解け、空へ還る最後の刹那にこはくが両手を夜空へ伸ばして描いたのは——夏の空には決して昇らないはずの、淡い「ふたご座」でした

並んで夜空を見上げたあの時間を忘れないように

ふたりが寄り添って過ごしたかけがえのない日々の証として、少女自らが選び空へ託したふたつの光

それは、「怒られちゃうから」と笑っていた少女が、自分のすべてを賭して犯した禁忌でした

静かに時を刻む日数の記憶

映像の片隅に刻まれる「38/92」「60/92」「85/92」「92/92」という数字

これは、こはくに残された「夏の任期」を静かに数える針の音です

ふたりの距離が近づき、笑顔が増えていくほど、別れの日が確実に近づいてくる切なさを、画面の余白に託しました

歌で綴る少年の心と、画面に灯るふたりの対話

歌詞は主に、少年であるろうの視線と心の揺らぎで綴られています

「君を目にしたその瞬間」「僕は思う儘に言ったんだ」「君のその微笑む顔が」「僕は誓った」

それに対して、映像の中に浮かび上がる台詞たちは、その時その場所で「こはくとろうが実際に交わした言葉のやり取り」です

「今、星動いた?」「少しだけだからね」という出会いのぎこちなさから、「最近元気ない?」「なんでもないよ!」という笑顔の裏の寂しさ、そして最後の「行かないで」「もっと一緒にいたかったな」まで

歌として流れる少年の胸の内と、画面上で交わされるふたりの愛おしい対話が重なり合うことで、言葉にできなかった想いの余白がより鮮明に浮かび上がるように紡ぎました

冬の街角と「245/92」——現世に降り立った少女

物語の結末、季節が巡り白い息が零れる冬の夜に、ひとつの数字が静かに示されます

「245/92」

定められた夏の任期「92日」を遥かに過ぎた245日目

ふたりで過ごした証のために神の禁忌を破り夏の夜空に冬の星を浮かべたこはくは、その代償として天界へ帰ることが叶わなくなっていました

天へ還る場所を失い、人の姿となって現世に現界した彼女

制服を纏い、かつての狐の耳を思わせる柔らかなマフラーを巻いて、冬の街角でふと足を止めます

見上げた夜空には、あの日自分が夏に浮かべた本物の「ふたご座」

胸の奥がきゅっと痛んでそっと手を当てる少女の姿に、ふたりが過ごした奇跡の続きを託しました


この情景に、静かに触れていただくために

この楽曲は、触れるたびに新しい星が見つかるように、細かな情景と感情の揺らぎを重ねて作っています

もしよろしければ、こんな風に耳を傾けてみてください

  • 夜の静寂の中で、情景と音の空気に浸る

まずは明かりを落とした部屋で、静かに音と映像の空気を味わってみてください

境内の静けさ・遠くの祭囃子の残り香・風鈴の涼やかな音・そして夜空いっぱいに広がる星々の瞬き

夏の終わりの澄んだ切なさを、そのまま心で受け取っていただけたら嬉しいです

  • 歌詞と台詞の重なりから、ふたりの対話を辿る

次に触れていただくときは、歌として紡がれる少年の想いと画面にこぼれるふたりの掛け合いに目を向けてみてください

何気ない冗談の奥にあった寂しさや少年が心に秘めた誓いなど、ふたりの会話の温度がより鮮明に伝わってくるかと思います

  • 散りばめられた星の軌跡を拾い集める

そして、ふたりの物語を深く知っていただいた後は、映像の隅々に残した小さな星の欠片を辿ってみてください

冗談として語られた冬の星座と最後に浮かぶふたご座、任期を超えて刻まれる「245/92」の数字、天界へ帰れず現世に降り立った少女の横顔——ひとつひとつの欠片が繋がったとき、この曲がただの別れではなく、「禁忌を越えて続いていくふたりの奇跡」であることを感じていただけるはずです


結びに代えて

「言えなかった言葉」

「情景に溶けていく感情」

「二度とは戻らない、流れていく時間」

僕が音楽を作る上でずっと大切に抱きとめている想いを、この『藍空をなぞって』という作品に込めました

夜、ひとりで物思いに耽るとき

ふと昔の大切な誰かを思い出したときに

この曲があなたの心に寄り添う星明かりになりますように